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あなたの車の中で [短編小説]

あなたの車の中で


               秋乃 桜子

女は車の中で自分の首にワイヤーを巻いた
ワイヤーの両方の端は車の左右のドアに苦心して付けた
女は暗くなるのを待って男に電話をかけた
今までの彼に対する愛と
そうして憎しみのありったけを
「私、あなたの車の中で死ぬわよ!」
男はあわてて、アパートから飛び出し
女のいる駐車場に、
「開けろよ!」
「嫌よ!」
問答が繰り返され、男は合鍵で自分の車のドァを
・・・乱暴に開けた
女の首に巻きつけられたワイァーはドアによって締め付けられ・・・



「ねえ?こんな風な小説ど~うよ」
「止めてよ!気味が悪い」
「女はさ、男に自分を殺させようと企むんだ~」
「変な小説!嫌だ~っ!そんなの・・・」
「夜さ・・・暗いと細いワイヤーは見えないし・・・」
翔太は不気味な笑いを浮かべた。


小説を書こうともがいている男の名は
鈴木 翔太
同棲している女は
河合 京子
翔太は高校を卒業後、地方の大学に進んだが途中で退学し
東京の専門学校に入校
本当はコピーライターになりたかったのだが卒業後まともな仕事に就けず
京子は、高校卒業後短大に進み、翔太と同じ専門学校に入校
入校後まもなく気が合い同棲を始める

もともと翔太は一匹狼的な性格で
人に使われるのを好まないばかりでなく
上司の言葉さえも気に入らないと聞く耳持たない性格の男であった。
京子は、というと、明るい性格のため
実力は伴わなくても結構、面接でいい感じに受かる事が多く
ただ、持続しない性格であったため
やはり職場を転々としていた。
お互いに持っていたコピーライターの夢はどこかに消えうせ
ただ、生活のためにだけ仕事をしていた。

「ねえ、翔太、第5エージェンシー募集しているよ」
「第5エージェンシー?それ、営業だろ・・・おれ、人と話したり得意じゃないし」
「だって、今の仕事よりやりがいがありそうだし・・・」
「だったら、京子が応募してみたらぁ」
「何っているのよ営業の仕事だって、きっかけが出来るかも知れないでしょう?
絵コンテ持って、受けにいってみたら・・・」
「無理だよ第5エージェンシーは営業だって難しいところだよ」
「そんなことないって、受けてみたら?」

翔太は、小説らしきものの続きを書き始め、何を言っても無駄だった。
京子は同棲といっても別に部屋を借りていた。

「翔太ぁ、今日は帰るね、お母さんが来るらしいから」
「うん?いいよ!明日は戻るの?」
「泊まっていくと思うから明日は夕方まで戻れないよ」

翔太は振り向きもせず答えた
「気をつけてな!」

京子は2週間ぶりに自分のアパートに戻った。
親にばれないように借りているアパートの家賃は5万、
安いと言っても京子には大金だった。
4畳半一間と狭いキッチン、ユニットバスとトイレの
テレビで見るような花のOLの生活とは、かけ離れた質素な部屋だった。
掃除を済ませた京子は、母からの電話を受けた。
予定が一日づれたらしい。
いつまでも母に内緒でこんな生活をしているのは苦痛だった。
翔太に結婚を望んだ事もあるが仕事が安定していないからと、
いい返事がもらえないままこんな生活を2年も続けている。

夜、京子は翔太のいるアパートに戻った。
アパートの明かりは消えていた。
合鍵で中に入った京子は暗闇の中で慌てる男と女の動きを感じた。
電気をつけるとシーツで顔を隠した女と翔太がいた。
「き・京子・・・」
情けない翔太の声
汗ばんだ獣の臭いが立ち込める狭い部屋の中
手を伸ばせば汚い男と女がいる
殴ろうとすれば殴れる位置

「翔太・・・忘れ物を取りに戻っただけだから・・・気にしないで」
「あ!・・・うん」
「翔太・・・うちにワイヤーあったっけ?」
「な・何するの・・・」
「あと、車借りるね」
「い・いいけど・・・」
「じゃあ、ごゆっくり・・・」
京子は身体の震えを隠しながら部屋を出た。

何も言えなかった、言葉が消えていく。
信じていた男が・・・

暗い駐車場の翔太の車の中に京子はいた。
首にはワイヤーが巻かれていた。

「もしもし翔太、私、あなたの車の中で死ぬわよ!」


                      完



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コメント 4

dejavuewords

おー、怖い。
こういうことって、実際に起きてる事件かもしれませんね・・・
by dejavuewords (2008-09-07 21:58) 

sakurako

dejavuewords さま!

そうですよ~ぉ!
過去の事は静かにお心の中に・・・
いや!覗いてみたい・・ dejavuewords さまの心の中
・・・怖いですよ~ぉ・・・女は

・・・って、意味不明のコメントごめんなさい!
昨日お邪魔したときに読んだ女子大生の話、思い出していました。
家人さん達には・・・秘密なのですね?

オットット星人が何故、ロープでないの?と聞くのですが
車の中の様子が見えないように細いワイヤーを設定したのですが、
分かりにくかったのでしょうね?
自殺なのに男を巻き添えにする激しい女の性!
・・・でも、これって、もし女が死ねば・・・他殺になるのかな?

フフフッ・・・本当に怖いですよ~ぉ!
あ!桜子ちゃんは・・・可愛い女の子ですから~ぁ!
コメントありがとうございました~ぁ!
by sakurako (2008-09-08 22:18) 

hirotto

おーーー。
朝から怖い思いしました。
京子かわいそう。
だけど京子のお母さんがもっとかわいそう。
by hirotto (2008-09-09 08:30) 

sakurako

hirottoさ~ん!
大丈夫です。
京子は・・・生きていますよぉ!
殺したりしませんから~ぁ!
だって、作者の桜子ちゃんは
・・・優しい女の子だもん!
一応、オチ・・・と言う事で~ぇ!
hirottoさんは優しいからも~ぅ!

コメントありがとう!
by sakurako (2008-09-09 21:44) 

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