手 [大人の童話]
「 ねえ、あなた起きて、ここはどこ?」
「いいから、こっちにおいで」
「こんなところにお線香がある」
「そうか・・・」
部屋は薄暗く窓は障子戸だった。天井にはシミが浮き出ていて、部屋の暗さとシミの模様が恐ろしい獣のように見える。壁は白塗りでところどころが剥げ落ちて、ただ掃除はされているようだ。「ねえ、このお線香たて気味が悪い」
「死んだ、わたしたちのために村人が置いてくれたんだよ。寒いか?早く布団にお入り」
「・・・わたしたち死んだの? ねえ!あなたぁお布団くっつけていい?」
「うん、いいよ」ここは東北の山の中、冬は道路が封鎖されて、なかなか容易に人の踏み込むところではない。寒くて凍えそうな寒さの中で二人は寝具に包まった。窓の外は世界を覆い隠すような勢いで雪が降りそそいでいる。
「ねえ~寒いね」
「ごめんなぁ寒いか?」
「うん、手つないでいい?」
男達が新しい線香を持ってきた 。
「この仏さんたち、なにもこんな雪深い山の中まで来て死ななくてもいいのによぉ」
「 まったく迷惑だよな。無理心中だって言うしさぁ男の方は肺がんの末期で女の方は、マダラボケだったらしいし」
「この雪じゃあしばらくこの仏様たちはこのままだべな~」
「お・おい!お前、仏さんをいじったか?」
「ば・ばか言え!そんなことするわけねえ」
「だって見ろよ布団はくっついているし手が・・・」
「ねえ、人の声がするよ。うるさいね・・・あなたの手冷たいね。あなた 寝たの?私も眠い・・・絶対に手、離さないでね・・・」