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愛犬 [心の中の言葉たち]

「おかあたん泣かないで・・・」

               秋乃 桜子


「今から行って来るねっ!待っていてね」

おかあたんは優しく、あたちの頭をなでて部屋から出て行った。
毎朝の光景だったけれど・・・
でも、今日は、いつもより優しかったね

「でも、おかあたん・・・あたち、もう、おかあたんに会えないと思う・・・」

あたち、生後2ヶ月でおとうたんと、おかあたんの家に来ました。
小さくて最初におとうたんの大きな手のぬくもりを感じました。
次に、おかあたんの小さな・・・
う~ん・・・おとうたんに負けないぐらい大きな手で
あたちを手の中に・・・暖かかったよ。

家には大きなお兄ちゃんと、小さなお兄ちゃんがいて、
何か興味深気にあたちを覗き込んでいたっけ・・・
大きなお兄ちゃんはあたちがイタズラすると怒る、ちょっと怖い存在。
小さなお兄ちゃんはあたちを玩具にするから少しうるさい存在。
おかあたんは、ご飯をくれるし、おとうたんは夜抱っこして寝てくれる。
そのうち、あたちは犬である事を忘れてしまったの。


おとうたんがお店でお仕事をしている音がするよ
おかたんは、今頃お外でお仕事だね?
あと何時間?おかあたんが戻るのはまだまださきだね・・・
・・・やっぱり、会えそうもないよ、おかあた~ん・・・


おとうたんとおかあたんは、お休みになると遠いところに連れて行ってくれたね
車に長い間乗っているのは辛かったけれど
お家で留守番は嫌だったから・・・嬉しかったよ。
キャンプもしたよね?
あたちがいると、色々な所に行けないけれど・・・それもまた、楽しいって、
人ごみは怖かったけれど、いつも、おかあたんが戻るまで独りだったから
お出かけは嫌いじゃなかったよ。
お散歩も好きじゃなかったけれど、おとうたんと、おかあたんの間に挟まりながら
顔を見ながら歩くのは大好きだった、時々踏んづけられそうになったりしたけれど。

あ! 踏んづけられるといえば、冬のコタツの中
あたちは「頭が煮えるぞ ~!」と、おとうたんに怒られてもコタツから出なかった。
そのうち、おとうたんは、あたちの嫌いな 嫌いなお酒を飲み始める
で、そうだ・・・あたち、コタツの中で蹴飛ばされて・・・
ビックリしておとうたんの足をがぶり・・・痛かった?
あたち、おとうたんの機嫌取り一生懸命したよね・・・
覚えている?

おかあたんは、まだ帰ってこない・・・

あたち、少し眠ったみたい
お水が飲みたいなぁ・・・
でも、そこまで歩けないの・・・

少し苦しくなってきたのでおとうたんを呼んだ
少し悲鳴に近かったかな?
バタバタと階段を駆け上がってきた
「キャンデイどうした?」
「苦しいのか?」
あたちの身体は痙攣が止まらなかった。
「もう少し待ってろな病院に連れて行くからな」
おとうたんは 病院に電話をしているみたいだった
舌打ちする・・・おとうたん
「待ってろなぁ今昼休みで先生がいないから少しだけ待ってろな~ぁ・・・」
あたちの身体を優しくなでてくれた。
お店に、お客さんがきたみたい・・・階段をバタバタ下りていった。

独りは怖いよ、淋しいよ、おとうたん、おかあたん・・・。
あたちを独りにしないで・・・


おかあたんは、お仕事がお休みのときはいつも一緒で楽しかったよ。
機嫌がいいと音楽を聴きながらお掃除をしていたよね
時にはダンスをしながら、あたちが一緒になって踊るとおかあたんも喜んで
いつまでも踊り続けたよね
あたちは、尻尾をふりふりおかあたんの周りをぐるぐる回る
知っていた?あたちだって可笑しい時、楽しいときは笑うんだよ・・・

あたちの怒るときの顔はわかるよね?少し生意気な顔をしていたでしょう?
可愛い?歯をむき出しにしたり、口元にシワを寄せたり・・・
だって、この家の子は男の子ばかりで、あたちは女の子、少し我がままなんですぅ。

あたちの名前、2個あるんだよね?
何やら血統証なるものにはアモーラル オブ ミサオ パーク ジエイピー
長くて可愛くない名前だからって、おかあたんが付けてくれたんだよね?
キャンディって!
男の子だったらクッキーにするつもりだったんですって?
食いしん坊のおかあたん・・・らしいね。

ウフ・・・あたちは、ミニチュァのロングヘァーのダックスフンド。
小さいときはロングの毛がモップみたい・・・って、おとうたんが笑っていた。

お散歩のときは道路のお掃除をしているって・・・

春は雪解けでどろどろになって、夏は草の実、秋は枯葉や木屑
冬はあまりお外に出なかったけれど・・・
冷たい雪があたちのロングの毛にくっついてそのうち氷になったっけ・・・

あ!川の中に入れられた事もあるよね?
生まれてはじめての経験だったよ。
泳ぎなんてした事ないのに、いきなりだもん・・・
おとうたんったら~スパルタだったよね?
でも、少しだったけれど上手に泳げたでしょう?
でも、おかあたん怒っていたよね
溺れたらどうするのぉ!・・・って。
おとうたんは・・・笑っていたね?
犬かきで、泳いだって・・・


おかあた~ん!まだ帰って来ないのかな・・・


おとうたん、お仕事なのに一生懸命、階段を駆け上がってくる。
「大丈夫か?待ってろな、頑張れ!もうすぐ連れていってやるからな・・・」
何度も何度も、あたちの様子を見に来てくれる。
おとうたん、ごめんね・・・

あたち、おとうたんと、おかあたんの足音わかるよ
車の音もわかるよ
あたちがお留守番をしているとき
家の前でサイドブレーキを引く音でわかっちゃうんだもん
すごいでしょう?
お家に入ってくる前にあたち、ワンワン吼えるでしょう?
お帰りなさい、淋しかったよ・・・って、言っていたんだよ。


おとうたん、苦しいよ・・・助けて・・・
震えがまた・・・
痙攣も・・・
あたち・・・大きな声で、おとうたんを呼んだの

あ・・おかあたんの車の音がする ・・・
おかあたんの泣き声?・・・
おかあたん!泣きながら車の運転は危ないよ・・・
スピード出さないで・・・
もう無理しないで・・・もう泣かないで
あたち、もう苦しくないよ・・・
おとうたんが優しく撫でてくれているから・・・
間に合わないけれど、あたちは・・・おかあたんがわかるの
近くまで来ている・・・おかあたんが見えるから・・・
おかあたん、ごめんね
おとうたん、ありがとう
おとうたんも・・・泣かないでね。

あたち、もう頑張らなくてもいいよね?


                             完

                                  
 

あとがき

桜子ちゃんの愛犬キャンディは2年前の10月31日に遠い世界に旅立ちました
そのときの事を思い出すと・・・今でも涙が止まりません。
困ったものです・・・。                       
16年もの長い時間を共にした愛する命でした。
・・・余りにも悲しい別れでした。
もう・・・動物を飼う気にはなれません・・・。
最期、ひと目会いたかったです。
      
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コメント 8

3ワンの母。

桜子さん読ませて頂きました。
今日、キャンディちゃんの命日なんですね。
涙が出ました。
いつか別れはくるんですよね。
でも、キャンディちゃんは、とっても幸せだった様ですね。
家の3ワン達は今は元気で居てくれるので
何か別れは考えられないのですが
きっと凄く辛いでしょうね、3ワン分も乗り越えられるかなぁ?
そして自分も元気でいないといけないしね。
キャンディちゃんは、桜子さんと出会う為に産まれてきたんですよ。
今頃、虹の橋でお友達と元気に遊んでいますよ。
そして、桜子さんと出会えて幸せだった事を忘れませんよ。
有り難う、泣かないでって。
もしかして、生まれ変わって又出会えるかもですね。
桜子さん、又3ワンに会いに来てやって下さいね。

by 3ワンの母。 (2008-10-31 11:05) 

sakurako

3ワンの母さ~ん!

ありがとうございました。
私の拙い文章にお付き合いしてくれて
コメントまでありがとうございます。
3ワンの母さんのコメント読んで
また、ウルウルしちゃいました。
でも、いいですよね?命日の次の日だもん!

はい!3ワンちゃんたちに会いに行きます。
3ワンの母さまの優しさにも・・・会いに行きたいと思いますっ!

by sakurako (2008-11-01 21:54) 

アガタ・リョウ

分かりますね。仲の好かった三兄の事を思い出しながら、読んでいました。死に目に合えませんでした。死ぬ前まで、私の名前を呼んで、あいつは良く食べるヤツだから、来たら飯を食わせてくれと、うわ言で喋っていたそうです。ワンちゃんも兄貴も、頭に浮ぶままを普通に言っている事なのでしょうが、遺されて、そんな事を聞かされると、如何しても、その時の臨場感が蘇ってきてしまいますね。桜子さんが、<困った二人>の子犬のエピソードに、感じたものを、今、思い出している次第です。感情の記憶とは、鮮明に息づいている物ですね。・・・目頭と胸が、滲んで震えて来ましたよ。
by アガタ・リョウ (2008-11-13 23:06) 

TAKE

そうだったんですか・・・。
あまりにも辛いお別れだったんですね。
その別れが辛過ぎると、もう2度と・・・って思いますよね。
16年もの間、一緒に居たのでしたらなおさらだと思います。
でもおとうたんおかあたん達と共に過ごしたキャンディちゃん、
とっても幸せだったのではないでしょうか。


by TAKE (2008-11-14 00:23) 

sakurako

アガタ・リョウ さま!

コメント残して下さっていたのですね?
遅くなりました~ぁ!
自分でもこのページ、なかなか覗かないので・・・
失礼しました。

今回は、私の懺悔のようなものです。
飼い主でありながら、気付かなかった悔しさを、
書くという行為で、言い訳に。
きっと、こんな風に許してくれたんだと
自己満足?の世界でしょうか?
動物の言葉が通じない分、ジレンマがあります。
残したい言葉はなかったの?・・・なんて、
もう、動物は飼う気になれませんね~。
小鳥達もたくさん飼っていたこともありますが、みな手乗りでしたけれど。
このワンコだけは一生忘れられないと思います。
・・・と、言っても、一生なんて、後・・・少しかな~ぁ?
うん?まだ、22歳だったかな?私??

ありがとうございましたっ!
by sakurako (2008-11-15 12:00) 

sakurako

TAKEさ~ん!

ようこそっ!
ワンコは子供のように生意気も言わないし
いつもべったりだし・・・
人間の子供は一人で大きくなったような顔をして
大人になるけれど
ワンコはご飯を欲しがって
遊んで欲しがって、抱っこをされたくて
16歳のおばあちゃんになっても赤ちゃんみたいで
体温が人間より高いので
いつもぽかぽかだし・・・冬は湯たんぽみたいで、
夏は、さすが暑くて、あまり寄り付かなくなるけれど
・・・本当に癒されていたのだと思います。
人間の要求を満たすペット?
違う!やはり・・・家族のように可愛かったです。
2年たった今でも考えると涙が出ちゃいます。
歳を取った証拠でしょうか?
レレレェ~?

コメントおおきにです。
by sakurako (2008-11-15 12:08) 

3ワンの母。

こんばんは。

お友達のブログに
犬は、自分の事より、いつも飼い主の幸せを願ってるそうです。
だから、例えどんなに辛くされても恨む事がないそうです。
そして「死」を恐れないそうです、生まれ変われる事を知ってるから
だから、桜子さん達が幸せそうに暮らしてらっしゃるのが
キャンディちゃんにとっての喜びだと思います。
キャンディちゃんは、桜子さん達と家族になりたいと思って
やってきたんですよ、きっと。

by 3ワンの母。 (2008-11-20 23:41) 

sakurako

3ワンの母さま!
そうですよね
介助犬や盲導犬を見ているとそんな気がします。
だから、なおさら人のために生きるワンコ達が
不憫に思います。
せめて言葉が話せたら・・・なんて。。。
でも、言葉が無いからこそ愛情も深くなるのかも知れませんが

3ワンの母さまも、3ワンちゃんたちも
私を癒してくれます・・・嬉しいですっ!
コメントありがとうございます。

by sakurako (2008-11-22 23:46) 

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