SSブログ

男 [大人の童話]

お仕事を終えて、いつもの食堂で遅いランチ
所定のお気に入りの場所に席を取る
私の好きな絵がかけられているその場所は
疲れた身体を癒やしてくれる
絵の中の女性が私に微笑んでいるようで・・・

私には気になることがあった
いつも座る席の向い側
中年の男性が決まった時間に訪れ
ひとつ向い側のテーブルに
向かい合うように腰をおろす
見た目には普通の会社員風
混んでいない時間だと普通なら背中を向けて座る
あたりを見回すと皆一方に向いて食べている
その男性だけは私のほうを向いて・・・
それが・・・2週間以上続いている
彼のお気に入りの席?
私と同じ時間に現れる・・・

今日の私は違う
彼が席に着いたとたん
私はトレーを持って席を移動した
心なしか男性の顔が曇ったような気がした


そんなことがあって
その後、男は二度と私の前には現れなかった

・・・40年後
私は職場結婚をしてすぐ退職
2人の子供にも恵まれ孫も出来
幸せな家庭生活を送っていた

そんな私を病魔が襲った
私は病院のベッドの中で半年も苦痛と戦っていた・・・
病院から見る景色は冷たいビルの壁だけ
でも、夕暮れになるとグレーの壁に映る夕日が美しくて
それだけが私の慰め


痛み止めの注射が効いたのか
幻覚なのか・・・不思議な夢を見た
40年前の
記憶にもないはずのあの場面

夢の中の男は・・・
紛れもなく今の夫の姿だった

夫が見舞いに来た
夢の話をしたら 
「お前が死んだら?お前の元気だった頃の姿、絶対、見に行くよ」
夫は笑っていた
そうか・・・あの時、40年前、
やっぱり、あなたは私に会いに来てくれたんだ・・・
あなただって分かっていたら・・・もっと、優しく出来たのに

「あなた・・・私が死んだら必ず若い頃の私に会いに来てね」
夫は微笑んでうなずいた

今度・・・
あの「男」に会ったら、こう言おうと思う
「ご一緒のデーブルでランチして良いですか」
あなたはきっと微笑んでうなずいてくれるよね

                         完


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

霊能者 ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。